進化精神医学特別セミナー 開催(2025.9.24)
特別講演1:『進化は進歩ではない 社会進化論の亡霊』
演者:長谷川 眞理子(総合研究大学院大学 名誉教授)
特別講演2:『How evolutionary psychiatry advances research and treatment of mental disorders』
演者:Randolph M. Nesse(Professor Emeritus,The University of Michigan)
「進化精神医学はいかにして精神疾患の研究と治療を前進させるか」
本講演では、進化生物学の視点を取り入れ、精神疾患の理解・予防・治療を根本から捉え直す「進化精神医学」の考え方が紹介されました。従来の精神医学が個々の発症要因に注目するのに対し、進化精神医学は「人類に共通する脆弱性」がなぜ生じるのかを探る点が特徴です。
アルツハイマー病や不安・抑うつなどの疾患を例に、進化的な防御反応や「煙探知機の原理」といった概念が解説され、症状がエスカレートする仕組みや薬物治療の位置づけについても示されました。また、摂食障害・依存症など現代環境との”ミスマッチ”による疾患、自閉スペクトラム症や統合失調症の遺伝率の高さといった進化的課題にも触れ、精神疾患を新たな枠組みで理解する重要性が強調されました。
特別講演3:『Evolution, emotions and relationships: The challenge of constructing a self in modern social environments』
演者:Randolph M. Nesse(Professor Emeritus,The University of Michigan)
「進化・感情・人間関係 – 現代社会環境における「自己」の構築という課題」
本講演では、人間の感情が生まれる背景を「進化」や「動機づけ」の観点から整理し、現代社会で「自己」を築くことの難しさが語られました。霊長類が追求する6つの資源(S.O.C.I.A.L.:仲間・地位・役割・家族・物質・愛と性)は互いに競合し、人間関係や感情の葛藤を生み出します。一方で、自然選択が発達させた思いやり・共感・誠実さなどの能力が、豊かな社会的つながりを可能にしている点も強調されました。
しかし、こうした社会的選択のプロセスは、普遍的な不安、低い自尊心、罪悪感、拒絶への恐怖も同時にもたらし、極端な感情表出や社会的孤立、ひきこもりなどの問題につながる可能性があります。講演では、こうした人間関係の生物学的理解が、心理療法や社会的支援、公共政策にとって重要な基盤となることが示されました。


