長谷川 寿一 Toshikazu Hasegawa

東京大学教養学部教授

東京の思春期の皆さん、ときどきはアフリカの森に住む遠い遠い親戚のことも考えてみて下さい。

今から30数年前、アフリカで野生のチンパンジーを追いかけ調査する日々を送っていた。チンパンジーにはヒトのような明確な思春期はないが、約5歳で乳離れしてから約15歳で一人前になるまで、若者たちは彼らなりに試練の時代を過ごしていた。チンパンジーはオトナオス同士の絆が大変に強く、若いオスたちはそのネットワークに入る準備をする。派手な示威行動ができないと一人前とみなされないので、若者オスはわざとオトナメスの嫌がることをしたり、求愛行動のまね事をしたりしていた。他方、若いメスは母性行動の準備だろう、子守りが大好きだった。ヒトとチンパンジーの最大の違いの一つは、積極的な教育の有無だ。チンパンジーでは誰も何も教えてくれない。自ら学び取るだけだ。人間はとくに思春期に教育を通じて多くを学び、自分を律して成長する。遺伝的にはごく近いこの2種がどうしてこれほど違う道筋に進化したのだろう。東京ティーンコホート研究では、人類進化の研究にもつながる貴重なデータが蓄積されている。東京の思春期の皆さん、ときどきはアフリカの森に住む遠い遠い親戚のことも考えてみて下さい。

(2015年12月)

Profile

川崎市出身。東京大学文学部心理学科卒、同大学院博士課程修了。文学博士。前東京大学理事・副学長(2013〜15年)。専門は、動物行動学、進化心理学。イヌの研究もする愛犬家。kikulog プードルで検索して下さい。