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長谷川 眞理子 Mariko Hasegawa

総合研究大学院大学学長

今の若い人たちは、この社会でどんな状況におかれ、どんなことを考え、喜んだり悲しんだりしているのでしょう?最近の社会の変化はあまりにも早いので、私にはもうわからなくなってきています。こんな事態は、人類進化の長い歴史の中で初めてのことだと思います。ホモ・サピエンスの進化史30万年の中で、また、ホモ属の進化史200万年の中で、こんなに変化のスピードが早かったことはなかったでしょう。その多くは、情報機器や技術に関するものによる変化です。

私はもう、若い世代の学生たちと接する機会が激減したので、自分の体の感覚として、若い世代の人たちの感覚を感じることがなくなってしまいました。しかし、他の大学の学長の多くも、企業のトップや政治家たちも、本当に今の若い世代のことを知りません。

だから、年長の人々の言うことは、もう尊敬されないのです。だって、今の技術も使いこなせないし、使っている人々の間で何が起こっているのかもわからないのですから。世代間ギャップはこれまでにもあったけれど、今はそれがとても深刻な状況だとおもいます。

その中で、私よりも若い世代の学者たちがこのコホート研究に携わり、今の思春期の人たちがどんな暮らしをしているのか、何を考え、何を感じているのか、親御さんたちはどう思っているのかを明らかにしていくのは、とても大切なことだと思います。

私たちの脳と心の基盤は、この200万年、30万年の進化史の中で作られました。しかし、それがどのように実際に働くのかは、現在の環境によります。その環境が、昔の環境とは様変わりしてしまった今、生物学的に作られた基盤としての脳と心がどのようにその変化に対応しているのか、対応できなくて困っているのか、本コホート研究によって、そこを明らかにしていければ、進化学者としての私はとても嬉しいです。

私が嬉しいだけではなく、これからの社会を築くための一助になると信じています。

(2021年2月)

Profile

理学博士。1952年7月18日東京生まれ。1976年東京大学理学部生物学科卒業、80~82年タンザニア野生動物局に勤務、83年東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程修了、東京大学理学部生物学科人類学教室助手、英ケンブリッジ大学研究員、専修大学助教授・教授、米イェール大学人類学部客員准教授、早稲田大学政経学部教授を経る。総合研究大学院大学先導科学研究科教授、理事・副学長などを経て、 2017年から現職。日本人間行動進化学会 会長も。専門は、行動生態学、自然人類学。訳書多数。