井上 慶太 Keita Inoue
将棋棋士 九段
様々な個性があり可能性を秘めている子どもたち。社会や大人は、それを暖かく見守り、サポートできるような世の中であり続けるよう、努力していかなければならないと思う。
私は、小学2年生の時、父から将棋を教わった。父はアマチュアとしてはかなりの腕前だったが、いつも勝つのは私。父は「すごいな強いな」とほめてくれた。もちろん父が手加減して勝たせてくれていたのだが、小さかった私はそんなことは露ほども知らず、ただ勝つことがうれしくて、もっと父や母にほめてもらいたくて、どんどん将棋が好きになっていった。
父は私にとって最高の指導者だった。現在私も教室を開いて子供達の指導に当たっているが、父を見習って初心者の子には良い手を発見する喜びと勝つ喜びを知ってもらえるようにと心がけている。
将棋は世界に数あるボードゲームの中でも変化と激しさに富んだ奥深いものだと思う。将棋に取り組むことで、思考力、集中力、持続力が自然と養われる。それとともに日本古来の伝統文化でもあり、「礼に始まり礼に終わる」という礼儀作法が身に付くという効用もあると思う。私自身、子供のころはずいぶんやんちゃで落ち着きがなかったが、将棋をやるようになって徐々に変わっていったそうだ。
子供のころに好きなことに出会えたことと、何より自信をもたせてくれた指導者に出会えたことは私にとって幸運なことだったと思う。 様々な個性があり可能性を秘めている子どもたち。社会や大人は、それを暖かく見守り、サポートできるような世の中であり続けるよう、努力していかなければならないと思う。
(2014年11月)
Profile
兵庫県芦屋市出身。加古川市在住。若松政和七段門下。1983年2月で四段プロ棋士に。名人戦A級通算3期。2008年、史上37人目となる公式戦600勝を達成(将棋栄誉賞)。2011年3月王位戦予選において勝利し、勝数規定により九段に昇段。指導者として稲葉陽、船江恒平、菅井竜也の3名のプロ棋士を輩出。プロ入り直後から好成績をあげている。2011年4月より日本将棋連盟棋士会副会長を務める。