田熊 美保 Miho Taguma
OECD教育スキル局シニア政策アナリスト
ドキドキワクワク冒険しよう!
「大人にあって子供にないもの」「子どもにあって大人にないもの」
それぞれ何があると思いますか?この問いを、他の国の大人と子どもと一緒に対話をすると面白いです。最初、大人には、「経験」や「知識」や「お金」など「目に見えるモノ」の答えが目立ち、子どもは「まだ未完成の存在」として捉えられることが多く、子どもにあって大人にないものの答えがなかなか出てきません。しかし、しばらくすると、「我を忘れて夢中になれる好奇心」や「根拠のない自信」「失敗しても許される若者の特権」「大人のルールを知らないからこそできる発想」などの答えがたくさん出てきます。
これは、今、私が担当しているOECDの未来の教育とスキルを考える「プロジェクト2030」での1シーンです。日本を含む多くの国から10代の若者も大人に混じって対話をしています。この対話を聞いていた時、思春期の思い出が蘇りました。中高生の私は好奇心いっぱいで、色々な事に興味がありました。やりたい事があると、その都度、言葉に出していたように思います。その都度、「無鉄砲」と言われていた気がします。
高校生の時、エチオピアの大旱魃のニュースで、私より小さい子や同年代であろう子の姿がテレビで映し出され、生まれた国や地域によって、生活の環境がこんなにも異なる社会の不条理を目の当たりにしました。以来、発展途上国の課題や文化に関心を持って、「マサイ族について、知りたい。一緒に暮らして、家を作りたい!」と言い出した私に、家族と友達は応援してくれましたが、「そんなのできっこない」や「危ない」と多くの大人の方に言われました。ですが、「できる!」「やりたい!」と願う想いを口に出したり、地道に行動をとることによって、味方になってくれる大人の方が増えていきました。大学生の時に、ドキュメンタリー企画書として出してみたところ、理解ある大人の方の目に留まり、実現することができました。
思春期の皆さんは、大人にはない「想い」を持っています。多感で繊細な時期だからこそ見えるものがあります。未来を語る時、大人は、過去の経験則から、現状を分析したり、未来を予測したりすることは得意です。思春期の皆さんは、過去の経験値が少ない分、無限大の可能性を信じて、過去にはない発想をすることができます。過去や今日の常識にとらわれず、自分の中にある「ドキドキワクワク」のスイッチを押して、冒険してください。そして、皆さんがやってみたいと思うことは、周りの大人の顔色をみずに、素直に「言葉」に出してみてください。そうすると、安心して話せて、大人の「カタ」にはめようとせず、失敗しても見守ってくれるロールモデルに出会える可能性が広がります。私自身もそうでした。高校生の時に感じた「心の中の熱いもの」は、今もなお熱を持って、世界の教育の未来を考える上で、私を支えてくれています。
(2021年7月)
Profile
上智大学卒業。ボストン大学大学院修了。フランス国立東洋言語文化大学大学院修了。 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)教育セクターを経て、経済協力開発機機構(OECD)へ。 OECD教育局教育研究革新センターにおける外務省派遣アソシエートエキスパートを経て現職。 現在、パリ在住、OECD本部で勤務。OECD東北スクールの立ち上げや、移民の教育政策レビュー、ノンフォーマル教育評価政策幼児教育保育政策分析、Eラーニング事例研究などに関わる。現在、OECD未来の教育スキル2030プロジェクトマネージャー。