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[無題]

第22回 都医学研国際シンポジウム

[無題]

2.認知症の緩和ケア:
疾患が始まる初期段階からの支援とアドバンス・ケア・プランニング

【演者紹介】

ジェニー・T・ヴァン・ディ・スティーン先生は、ライデン大学医療センターの公衆衛生プライマリ・ケア分野の准教授です。ヴァン・ディ・スティーン先生は疫学者で、終末期における認知症の人と家族へのケアをより良くするための研究を続けてきました。最近の大きな仕事として、欧州緩和ケア学会における認知症の緩和ケアに関する白書の策定を、筆頭で進めました。講演では、「認知症の緩和ケア」という、世界でも比較的新しい考え方についてご紹介いただきました。

【講演の主要なメッセージ】

  1. 緩和ケアは、治療法のない疾患とともに生きる人の、生活の質に焦点をあてる
  2. 認知症は余命を縮める疾患であり、早い段階からケアを考えることが重要
  3. 認知症の緩和ケアは、認知症ケアをより良くする
  4. 認知症の早期からのアドバンス・ケア・プランニングによるメリットがある

【講演の抄録】

1)緩和ケアは、治療法のない疾患とともに生きる人の、生活の質に焦点をあてる

緩和ケアという概念は、がんの終末期ケアで始まりました。1960年代には英国のシシリー・ソンダース(Cicely Saunders)先生がホスピスケアを提唱されています。緩和ケアは、QOL、生活の質を保つことに焦点をあてたケアのあり方で、根治法がない、治療法がないと診断された病気に対して行われるものです。WHOの定義では、生命を脅かす疾患、あるいは延命ができない疾患の患者およびその家族を対象としたケア、が緩和ケアとされています(WHO Definition of Palliative Care)。

最近になり、緩和ケアは終末期のみならず、治療法がない疾患、慢性疾患にも適応があるとされるようになりました。また、がん以外の不治の疾患、進行性の疾患においても提供されることになり、非常に早い段階からの緩和ケアもあり得るという認識が高まっています。欧米諸国で亡くなる人の2/3は緩和ケアのニーズがあるとされています(Murtagh et al., Palliat Med 2014)。

2)認知症は余命を縮める疾患であり、早い段階からケアを考えることが重要

一般の方には、認知症による記憶、言語、社会的認知の障害は分かっていても、実は移動や嚥下困難などの身体的な障害も伴うことはあまり知られていません。認知症には複数の種類がありますが、終末期における最終的な症候は、種類に関わらず、同じものがみられるといえます。

認知症の発症率は年齢との相関が非常に高いです。60歳代、70歳代で発症した場合の生命予後は、かなりばらつきがありますが、7年です。85歳、90歳代になってから認知症と診断された場合は、診断からの余命は1年ないし2年と、限られています。若年で診断されるだけ、失われる寿命は大きくなります(Brodaty et al., Int Psychogeriatr 2012)。70歳で診断されると、その年齢の平均より15年、命が短くなります。85歳で診断された場合は、相対的に失われる年数は数年にとどまります。

認知症の人の死因は、食事や水分の摂取の問題、繰り返す肺炎、心血管系の疾患などいろいろあります(Hendriks et al., J Pain Symptom Manage 2014; Hendriks et al., Alzheimer Dis Assoc Dis 2017; Foley et al., Dement Geriatr Cogn Disord 2015; Manabe et al., PLOS One 2019; Miranda et al., Int J Geriatr Psychiatry 2020)。それらの原因が認知症である場合も、そうではなく認知症は併発疾患のひとつである場合もあり得ます。これらの特徴は、いつ、それが起こるのか予想がとても難しいことです。例えば、肺炎を繰り返し起こしていても、そのうちのどこが最後の肺炎になるかを見極めるのは極めて困難です。認知症の人の半数は、いわゆる高度認知症という状態になる前に、亡くなります。認知症が高度に進んだ状態でなくても、ケアニーズはかなり複雑です。いつ亡くなるか分からない、ということですから、できるだけ早い段階からケアを考えていくことが重要です。

症状の負担が非常に大きいことも認知症の特徴です。いよいよ死期が迫って最期の1週間という時期だけでなく、それ以前にも、終末期では様々な症状が出てきます(Hendriks et al., J Pain Symptom Manage 2014; J Am Med Dir Assoc 2015)。終末期になると、興奮、不穏などの症状はむしろ減少し、痛みや息切れなどの症状が強くなります。介護者の負担が大きいという特徴もあります。地域で生活している高齢者の、介護をしている家族が感じる介護負担を調査したことがあります。家族介護者が感じる負担が最も高くなるのは、ご本人に認知症があり、かつ終末期である場合でした(Boogaard et al., Am J Hosp Palliat Care 2019)。この区分の家族介護者はまた、介護の経験について、肯定的な経験として受けとめている割合が最も低くなりました。

まとめると、認知症は治療法がない、治すことができない病気である。またご本人の生命を短くしてしまう病気である。緩和ケアは、ご本人と家族を対象にしていて、複雑で具体的なニーズがあることから、問題を予測(して準備)することが重視されます。本人中心のパーソンセンタードで、全人的なケアを提供するので、多職種によるケアが必要であり、またQOLを大事にする。このようなことから、緩和ケアが認知症に適応されるのです。

3)認知症の緩和ケアは、認知症ケアをより良くする

私たちは、認知症の緩和ケアを具体的に特定するために、欧州緩和ケア学会の中で、枠組みを構築する白書を作成しました(van der Steen et al., Palliat Med 2014)。11の領域と57の推奨事項という構成です。基になっているのは、研究によるエビデンスと専門家の間のコンセンサスを、デルファイ法という調査手法で統合したものです。この白書は日本語にも翻訳されています(※中西・小川が翻訳を担当)。11の領域のうち、②~⑨の8つは直接的にケアと関係します。

  1. 緩和ケアの適用
  2. その人を中心としたケア、コミュニケーション、意思決定の共有
  3. ケアの目標設定とアドバンス・ケア・プランニング
  4. ケアの継続性
  5. 予後予測と時宜を得た死期の認識
  6. 過度に積極的な、負担のかかる、あるいは無益な治療を避ける
  7. 症状の最適な治療と快適さの提供
  8. 心理社会的、及び、スピリチュアルな支援
  9. 家族ケアと関わり
  10. 医療チームの教育
  11. 社会的、倫理的な問題

専門家の意見で、最も重要という意見が一致したのは領域⑦「症状の最適な治療と快適さの提供」と領域②「その人を中心としたケア、コミュニケーション、意思決定の共有」でした(Brazil et al., J Palliat Med 2017)。どんな人にとっても良い最期とは何かに共通した要因であり、理に適っているのではないでしょうか。領域⑦はいわゆるペインフリー(pain free)、痛みのない状況で亡くなること、領域②は尊厳をもって死にゆくことができる、ということに関係します。

今後、認知症の緩和ケアを向上するには、これらの領域のどこに注力するべきか。北アイルランドとオランダの医師を対象に調査した結果、優れた認知症の緩和ケアの提供にあたり一番の障害となっている要因は、一般の人がこれを知らない、あるいは認知症に緩和ケアが必要であると受け入れていないことでした。それから医療チームも認知症の緩和ケアを知らない。そこで領域⑩「医療チームの教育」が必要でした。

白書の、具体的な推奨文を二つ紹介します。まず領域⑦「症状の最適な治療と快適さの提供」の⑦-3では、「痛み・不快・行動の評価ツールは、中程度および重度の認知症のある患者のスクリーニング、モニタリングに使用して、介入の有効性を評価すべきである。」こうした各領域の推奨文の下に、根拠となる参考文献、研究・試験の名称などが列挙されています。このような構成で白書は作られています。領域②「その人を中心としたケア、コミュニケーション、意思決定の共有」の②-1では、「認知症のある患者をケアするにあたって認識される問題は、その人を中心としたケアという考え方を適用して、患者の視点からみるべきである。」

では、認知症の緩和ケアは、がんの緩和ケアとどこが違うのか。最初の領域①「緩和ケアの適用」と、領域⑤「予後予測と時宜を得た死期の認識」がまず違いとしてあげられます。それから領域③「ケアの目標設定とアドバンス・ケア・プランニング」、領域⑨「家族ケアと関わり」です。

専門家の間でも、合意が得られず、後に改定が行われることになった点があります(van Riet Paap et al., BMC Palliat 2015; van der Steen et al., Int Psychogeriatr 2016)。認知症の緩和ケアはいつ、認知症のどの段階で、どのように行うのか。そして予後予測について話し合うこと、その価値について。栄養補給、水分補給について。これらは多くの国、文化において、単に治療というだけでなく、非常に象徴的な意味を持ちます。

研究の中で聞かれた声は、例えば、このようなものです。認知症を最初からターミナル(terminal, 終末期)の状態と呼ぶのは、緩和ケアの意味を理解していない人はもう諦めるんだと思ってしまうかもしれないので、適切ではない。優れた認知症ケアを、緩和ケアと、単に名前を付け替えるようなことはすべきでない。こうした懸念は、特に若い年代や、認知症ケアの専門家から、聞かれました。

しかし、ケアにおいては複数の目標を掲げることが可能ですし、異なる目標をもつケアを同時進行させることも可能です。異なる目標の間に優先順位があるわけです。何を優先するかは認知症の経過と共に変わります。緩和ケアは、目標の中の、QOL、機能の維持、快適さの最大化と最も関連します。ということは、認知症の非常に早期の段階から、機能の維持や快適さの最大化に焦点をあてて、緩和ケアを開始することが可能です。

欧州緩和ケア学会で白書策定の検討が行われた後、私たちは、通常の認知症ケアと認知症の緩和ケアとの違いを検討しました。結論として、認知症の緩和ケアは、次のような特徴を持っています。その人の死を予測・予期した上で、死にゆく最期の時期をしっかりと認識している。その中には、死別後のケアも含まれるし、明らかにスピリチュアルなケアにも注視しています。さらに系統的なモニタリングを行い、症状に対する対応を行う。そしてアドバンス・ケア・プランニングを重視します。従って、予測した上でのケアという特徴があるわけで、早期から開始することが可能ということになります。認知症の緩和ケアは、認知症と緩和ケアという二つの世界の専門家をつなぐことができる。それは非常に良好な(ケアの)結果を得られる機会だと考えられます。その二つの協働は、チームレベルの協働だけではなく、政策面でも、協調、協働が期待できます。

4)認知症の早期からのアドバンス・ケア・プランニングによるメリットがある

アドバンス・ケア・プランニングは、ご本人、家族、医療チームの間で継続したコミュニケーションのプロセス、と捉えることができます。認知症に対して、アドバンス・ケア・プランニングを早期に開始することで、どのように役立つのでしょうか。

アドバンス・ケア・プランニングは認知症の診断がついた直後から、ご本人の意思決定能力が失われた場合に、誰が本人の代理で意思決定をするか、決めるところから始まります。ご本人あるいは家族から、どのような好みや価値観を持っている方なのかを聞き取り、医療チームはご本人についての理解を深めます。これはケアの目標(ご本人にとって適切な治療)や優先順位を決めるのに非常に役に立つ情報です。

聞き取ったご本人のし好、価値観、ケアの目標を文章に起こします。場合によってはリビング・ウィル(living will)の形にまとめることがあります。この段階で極めて重要なことは、ご本人の同意があることです。ご本人に、今後のやり方についての計画を立てる、ということへの対処能力があることが大事です。ただ、(診断を受けた)その場で先のことを決めてしまうだけでなく、種をまいておく。今はしないけれども、将来いずれかの時点でこういう議論をします、また後ほどお話をしましょうと伝えておくことも、この段階では可能です。そうすることで、早期からの緩和ケアを開始しやすくなり、ご本人と家族に将来のことを考える機会を与えることにもなります。

米国のAMDA(American Medical Directors Association)のように、ナーシングホームの入居者を対象として、アドバンス・ケア・プランニングの書式を作っている団体もあります。もちろん、医療従事者だけが知っていればいいことではないので、早い段階からご本人と家族に伝えていく活動も重要です。ご本人や家族は、いろいろ心配はあるけど、どのように医師に持ちかけたらいいか、どう質問したらいいか分からないことがよくあります。そこで、ご本人や家族が使える、医師への質問集を作ったりしています。

しかし、認知症のアドバンス・ケア・プランニングは、どのやり方が一番効果的なのか、まだ解明されてはいません。例えば意思決定に関わる項目の中で、どういう医療介入(入院など)を希望するのか・しないのか、に焦点をあてるべきなのか。それとも、ケアの目標、価値観をより理解する方に注力すべきなのか。後者の場合、医師の側には具体的に何をするかの情報は伝わらないかもしれませんが、より多様な状況におけるご本人や家族の意向を理解できる、というメリットがあります。

私たちの次の新しい研究では、医師、ご本人、家族を対象として、この2つあるアドバンス・ケア・プランニングのアプローチのうち、どちらが好ましいと思うか、意見を聞く予定です。オランダだけでなく、日本、アメリカ、ドイツ、スイスといった国の人が参加することになっています。